ブリ豊漁も“食べる文化ない”新ブランド「極寒ブリ™️」新たな名産品に【木村漁業部】
白糠の海は、太平洋の暖流と寒流が交わる絶好の漁場を有しており、1年を通して様々な海産物が水揚げされます。特に、秋はサケで知られる白糠の定置網漁ですが、近年、サケ漁に異変が起きています。ここ10年の間に、サケの漁獲量が伸び悩み、ブリが急増しているのです。
しかし、北海道産のブリは馴染みが薄く、消費が限られるため、価格は富山県産のブランド魚と比べ10分の1程度の価格で取引されることも。
こうした状況を打開するべく、ブリの付加価値を高めて消費拡大に繋げようとする取り組みが始まっています。船上で活締めした7キロ以上のブリを「極寒ブリ™️」と命名し、ブランド化。
この取り組みを牽引する有限会社木村漁業部の3代目、木村太朗船長の定置網漁に同行させていただき、お話を伺いました。
北海道の海に異変!サケ獲れず、ブリ豊漁
夜明け前、木村船長率いる「第三十一 宝栄丸」を含む8隻の漁船が白糠漁港から沖合を目指します。漁港から片道約30分の場所にある約3km×200mの区画が木村船長の漁場です。その中にある4つの「溜まり」(魚を網ですくい上げる場所)をまわって漁を行います。
波も大きく小雨も降るなか、この日の水揚げ量はサケ200キロに対し、ブリ4,200キロとサケの20倍超に。今シーズン最大の水揚げ量だったといいます。
“白糠でブリが獲れるようになった10年前は、まだまだサケの漁獲量も多く、獲れる魚種が増えたことに喜んでいました。しかし、サケの漁獲量がどんどん減り、ブリと逆転すると、頭の痛い問題に。ブリは北海道ではメジャーな魚種ではなかったので、サケの代わりになるほど、価格が高くないんです。しかし、脂の乗りや身の締まりなど、白糠のブリはブランド化された他県産のブリに引けを取らない。モノは良いので、この価値が正しく評価されれば白糠の新たな名産になると期待しています。”
白糠産のブリの価値を高める取り組みとは
白糠沖で水揚げされ、船上で活締めした7キロを超える魚体のブリを「極寒ブリ™️」として商標登録。これにより、北海道内の他地区で水揚げされるブリとの差別化を図っています。
“鮮度を保つ秘訣は、獲ってすぐに船上で活締めすること。エラを切って血を抜くことで、生臭さのない新鮮な美味しさを保つことができます。手間はかかりますが、自分たちが獲った魚をみなさんに美味しく食べてほしいという思いが大きいのです。魚の味は処理の仕方で大きく変わるため、日々締めの技術を磨いています。”
まな板が汚れない魚、一手間で価値を高める
“実は、これまでも白糠で獲れる魚の価値を高めるため、数々のチャレンジを行ってきました。15年ほど前、当時はまだ珍しかった活締めをトキシラズで行い、徐々にそれが当たり前になってきた頃、自分は更にワンランク上に行きたいと思い、「神経抜き」という技を磨きました。神経抜きとは、船上で血抜きを行った後、脳の位置からワイヤなどを使い背骨に沿って神経を破壊する締め方です。死後硬直を遅らせ、鮮度が落ちにくい効果があります。白糠町では、僕しかやっていないんじゃないかな(笑)。
ほかには、胃袋洗浄ですね。小魚の残骸や胃液を洗い流すことで、鮮度を保てるだけでなく、捨てるしかなかった内臓も飲食店で調理できるようになります。ウチの魚はまな板が汚れないんですよ。日本全体で漁獲量が減少するなか、水産資源を保護し、持続可能な漁業を目指すためには、獲る量を減らし、一匹一匹の価値を高める必要があると考えています。白糠の魚を食べた人が感動してくれるよう、獲れた魚の価値を更に高めてあげたい。価値が認められ、価格も上がってくれたら嬉しいです。”
新工場からさらに新鮮なブリを多くの人へ
2023年9月13日、白糠町・庶路地区に「極寒ブリ™️」を使った加工商品を製造する工場の落成式が行われました。式典には棚野町長や地元の漁協関係者らが出席し、「ブリしゃぶ」が振る舞われました。棚野町長は、新たな地元の名産品に舌鼓を打ちながら、その“活躍ブリ”に期待を寄せていました。
“臭みがまったくなく、脂の乗りが最高。上品な脂なので何枚でも食べられる。海水温上昇などの影響によって、いま白糠町で獲れる魚種の転換期にあると考えています。一時ではなく長い目でブランドを育てていくことが必要です。加工工場開設によって白糠でとれる食材たちの付加価値が一歩前進したと思います。これまでは1次加工、1.5次加工までが中心でしたが、直接消費者の口に入る・そのまま食べられる状態(2次加工)でお届けすることが実現できて嬉しい。日本全国のブリファンのみなさんに“ブリブリ”消費してもらいたい。”
北海道の小さな町の期待と未来をのせた極上の味わいの「極寒ブリ™️」をぜひご賞味ください。