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害獣から白糠町の資源へ 余すことなく鹿を活かす【えぞ鹿ファクトリー】

白糠町にはたくさんの野生のえぞ鹿が生息しています。本州に生息するニホンジカよりも体が大きく、最大で体長約190cm、体重は150kgほどにもなります。
 
一時は絶滅寸前まで激減したえぞ鹿ですが、環境の変化や保護政策で急増。農産物への被害や、事故が増えるようになりました。そのため1990年代にはハンターによる捕獲など管理が始まり、同時に食肉利用としての取り組みも始まりました。
 
鹿肉は、フランスを中心としたヨーロッパでは古くから有名な高級食材です。日本でもジビエ料理人気の高まりや、ヘルシーで栄養価が高い鹿肉のポテンシャルが注目を集め、鹿肉の人気が高まっています。
 
白糠町で、北海道えぞ鹿ファクトリーを営み、鹿肉の加工品を全国に届ける呉奇(ゴキ)さんにお話を伺いました。

呉奇(ゴキ)さん

東日本大震災をきっかけに、えぞ鹿の食肉加工をスタート

呉奇さんがえぞ鹿を取り扱うようになった経緯を教えてください。

私は1990年に、上海から北海道に移住して来ました。その後94年に「株式会社北海道えぞ鹿ファクトリー」の前身となる「日中物産株式会社」を札幌市に設立し、主に中国との輸出入業を行っていたんです。2002年には中国・上海に「石狩水産品(上海)有限公司」を設立。冷凍サケなど北海道の水産品を中国に輸出、加工販売事業をスタートさせ、北海道内の中小企業の中国展開を目的とした「北海道物産展」も道の委託を受け、中国で開催しています。

転機となったのは、2011年の東日本大震災です。地震をきっかけに中国で日本産食材の輸入が規制されてしまったんです。そして同時期に、「えぞ鹿が急増して大変だ、中国に輸出できないか」というご相談を受けました。水産業がストップしてしまったこともあり、えぞ鹿についてのリサーチをしてみたんです。
 
ここ30年ほどで、北海道のえぞ鹿は随分増えました。温暖化で積雪量が減少し、凍死するリスクが減ったことや、天敵のエゾオオカミが絶滅したことが彼らの生存率を高め、ピークといわれる平成22年度頃の推定生息数は、65万頭だったそうです。
日本の食卓ではあまり馴染みがない鹿肉ですが、中国では古くから食文化として根付いています。
加えて、道内に生息するえぞ鹿は、中国にいる梅花鹿(メイファール)という鹿と同じ種類であることがわかりました。梅花鹿は、中国で古くから漢方薬となる貴重品として扱われています。えぞ鹿もきっと中国でニーズがあるだろうと考え、北海道立総合研究機構食品加工研究センターの技術指導のもと、えぞ鹿の加工技術の開発をスタートさせることになりました。
 
しかし、鹿肉自体は検疫上の理由で輸出入ができないため、まず挑戦したのは加工品の開発製造です。初めて開発したのは、鹿肉を酵素分解したエキスを抽出した健康ドリンク。疲労回復や健康に良いんですよ。だけど、瓶詰めのドリンクは、輸送の際にかさばるほか、重量もあるため、コスト面で課題がありました。

高タンパクで低カロリー。鹿肉のすごいポテンシャル。

そこで、次に着手したのは国内向けの鹿の精肉や加工食品の製造販売です。国内での鹿肉の消費量は年々増えています。鹿肉は高たんぱくで低カロリー、鉄分やビタミンも豊富で、健康にとても良いお肉です。早くから鹿肉の事業に着手していたこともあり、年々売上は上がり、リピーター様やお取引先のレストランも広がっています。

鹿にはものすごいポテンシャルがありました。まず捨てるところがほとんどないんです。肉だけでなく、骨や角、そして皮までも加工することができます。だから工場から出る産業廃棄物は少ないんです。

実際に工場の中には本当にたくさんの機械が並んでいますね。

解体して食肉用に切り分ける解体室、肉と骨を分ける精肉室、非加熱製造室、加熱製造室、ドリンクを充填する部屋。鹿の油を原料に、化粧品を作る部屋。鹿の全部位をあらゆる形状に加工できます。
 
鹿を取り扱っている工場は、この地域にいくつかありますが、ハンターさんから鹿を搬入し、精肉のみならず鹿肉加工食品、ペットフード、鹿油化粧品、鹿角のアクセサリー等の製品製造まで、一貫して自社工場で製造しているのは当社だけです。
鹿のプロフェッショナルとして、加工手法や商品展開の幅に自信を持っています。

味もとっても美味しくて、お客さまからは「柔らかくジューシーだった」「癖がなく柔らかい」「食べごたえがあるのにヘルシー」と嬉しい声が届いています。また多くのレストランにも肉を卸していますが、品質に高い評価をいただいています。
 
当社はペットフードも作っています、よく売れていますよ。「ペットが飛びついて夢中になって食べてくれた」「毛並みも良くなった」と評判です。

当社は、国際的な衛生管理手法であるHACCP(ハサップ)を始めとして、7つの製造許可証を取得しています。安心安全に気を配り、お客さまに良い商品を届けようと努力しています。

やりたいことがたくさん。従業員と一緒に成長していきたい

工場の従業員は10名。この人数で全ての業務を行うのは正直大変です。みんな頑張ってくれているけど、人が足りない。やりたいことはまだまだあります。だからもっとメンバーを増やして、できることを増やしたいですね。
 
会社が成長するためには、従業員自身ももっと成長しなければいけません。従業員が成長できないと、事業もうまくいかない。私も含めて、みんなで一緒に成長しようっていつも言っています。
 
白糠町はとっても良いところなんです。自然が豊かなのに、都市部にもすぐ出られるし、名産品もたくさんある。それに町をあげて、子育てや事業支援などを積極的に行っています。すごく住みやすい場所なんです。
 
白糠町の魅力を知ってもらって、そして一緒に成長していける仲間を増やしたいですね。

周りの人に助けられ、多様な商品開発が実現。

幅広い商品を展開されていますが、商品開発はどのように行っていますか?

本当に幅広いですよ。最近では、念願の鹿革の加工もできるようになりました。これからは革製品も作っていきます。そして鹿の角はアクセサリーになります。
新しい商品アイデアは、常に考え続けています。通常なら破棄する部位を活用できないかといった具合に。

アイデアはいろいろありますが、商品開発は周りの人に助けてもらってこそです。私たちだけで、すべての商品開発はできません。動物病院の獣医師さんと、鹿肉でペットフードを作ったり、札幌市立大学との産学連携で、鹿角、鹿革を材料にハイヒールやボールペンなどの日用品やキャンプ用品の製作に活用したりと、いろんな人に助けられて、今があります。
 
私もすっかり北海道人ですから、地域の人たちが、必要な人を必要なタイミングで紹介してくれるんです。やりたいことの話をすると「じゃあこの人に会えば良いよ」といった具合に、自然に繋がっていく。だから大変だと感じた事はありません。
 
いま考えているのは自分の手で完成させるハンドメイドキットの名刺入れ、ファストシューズ等のキット商品です。家族や恋人への贈り物に既製品ではなく、ひと手間を加える。そんな体験を通して、鹿に触れ、知るきっかけにしたいんです。
日本の食卓に広く鹿肉を流通させるためには、食肉だけでなく様々な加工品を通して、鹿の良さを広めることが重要だと思っています。

えぞ鹿ファクトリーの商品は、北海道物産展で大人気

とってもパワフルな呉奇さんですが、頑張れる理由や、やりがいを教えてください。

お客様が喜んでくれることが私の原動力です。実は昨日まで、東京の池袋サンシャインシティ「北海道まるごとフェア」という物産展に出店していました。行列ができて、用意した5日間分の在庫が4日目には完売するほどだったんですよ。特に嬉しかったのは、去年からリピートのお客様がたくさん来たこと。「えぞ鹿肉まん」「一口揚げ鹿まん」「ソーセージ」が特に人気で、「あのソーセージが食べたい」「えぞ鹿肉まんの味が忘れられなかった」と、たくさんのお客様が声をかけてくれました。みんな笑顔で当社の商品を食べてくれて、幸せな気持ちになりました。

他の人から見たら、ほんの小さな成功かもしれないけれど、わたしにとっては日々の喜びです。朝の商品の搬入から、接客、最後の後片付けまで、毎日15時間くらい働いていたけど、疲れも吹き飛んでしまいます。商品開発も、物産展の計画も、会社の経営も、毎日やることだらけで忙しいけれど、頑張れてしまいますね。

いつか、えぞ鹿ファクトリーを観光スポットに。

これから北海道えぞ鹿ファクトリーが目指す未来について教えてください。

鹿肉を全国に届けていくことはもちろんですが、ここ白糠の工場を観光スポットにしたいと思っているんです。今年から敷地内にキャンプ場を作りました。鹿肉のジビエバーベキューが楽しめます。恋問自然観察公園が隣接しており、自然観察塔から、スズラン、ハマナス、エゾノコリンゴなどの観察ができます。

鹿肉を使った餃子、ハンバーグや焼き肉を楽しめるレストランを作りたいし、石鹸、キャンドルやアクセサリー作りができる工房を作りたいんです。私たちの工場が観光スポットになったら、白糠町に訪れる人がもっと増えますよね。
 
まだまだやりたいことは尽きません。

株式会社北海道えぞ鹿ファクトリー
工場所在地
〒088-0569
北海道白糠郡白糠町工業団地2-2-5
本社所在地
〒064-0804
北海道札幌市中央区南4条西9-1006-8 パワービル南4 3F
URL:https://deer-factory.jp/index.html

えぞ鹿ファクトリーキャンプ場
〒088-0569
北海道白糠郡白糠町工業団地2-2-5
営業期間:5月1日〜10月31日
URL:https://ezoshikafactorycamp.web.fc2.com/