地元で愛された名店の責務。“存続”を目指した後継者探し【レストランはまなす】後編
閉店してしまうのか、それとも存続できるのか…。町民を中心に、誰もが存続を願った白糠町の名店「レストランはまなす」。2代目オーナーシェフ・谷口修さんが、後継者探しという難題と向き合い約1年間奮闘した結果、とうとう待望の後継者が決定しました。北海道・札幌市からやって来た長谷川英倖さんと相業(シャンイエ)さんご夫妻です。
北海道白糠町公式noteでは、「はまなす」閉店の危機を前編でお伝えしました。後編である今回は、いよいよ未来へと走り出した新「はまなす」について、谷口さんと長谷川さんにお話を伺いました。
まずは、後継者を決めた理由や、これからの「はまなす」について、谷口さんに語っていただきました。
後継者を長谷川夫妻に決めた理由とは
後継者を決めるにあたり何組かお会いしたのですが、長谷川ご夫妻に決めた理由は、二人とも非常に熱心で、そして夫婦で力を合わせて臨んでいただけるという点でした。旦那さんが経理や営業などマネジメントをやり、彼女が厨房に入ります。大きなお店なので、1人ですべてやるのはとても大変。お互い集中するために、マネジメントと調理は分けた方がいい。現に私たちも、妻がマネジメント、私が厨房と分けてやっていて、それが理想だなと思っています。お二人にもその意思があったので、うまくやっていけるのでは?と。私たちの形に近いお二人だったという訳です。
2024年の1月から、引継ぎのため一緒に働きはじめています。彼女の得意分野は、中華料理です。
伝えなければいけないことが多いので、私も彼女も今は無我夢中ですね。とっても熱心でやる気があって、しっかりしている。こういう気持ちの部分が一番大切なことなので、そういう意味では安心しています。
日々目まぐるしく、さっきも“毎日走っている感じがするよね”なんて話していたところでした。十分いい感じになっていますよ。
名刺代わりの新メニューにも、白糠町のおいしさが詰まっている
二人とも白糠町のことを気に入ってくれて、地場食材にも興味を持ってくれています。実はもう彼女が考案した新メニューが出ているんです。本当は、引継ぎが一通り終わってから…と思っていたけれど、お客さまから“何かないの?”と言われるので、それなら名刺代わりに一品と。それが「シャキシャキ春巻き」です。阿寒ポークという地元の豚肉と地場野菜がたっぷりと入っています。イメージとしては野菜サラダみたいな春巻き。ちょっと変わっているでしょ?
「作ってみて」と言って出てきたのがこの春巻きで、食べてみたらおいしい。一発OKでしたね。彼女が作るものって、野菜をメインにしているものが多くてヘルシー。あっさりとした野菜中心の中華なので、時代に合っている気がします。今後、「パリモチ餃子」というメニューも出る予定です。皮からすべて手作りで、パリッと焼き上げていますが、食べるともっちり。これも一発OKで素晴らしい味でした。
今後、少しずつ自分が持っている色を出していくと思いますよ。ただ、洋食の経験をもう少し積んでいかないといけないので、今頑張っているといったところですね。そもそも技は持っているので、あと半年もあれば完璧でしょう。
お客さんも“良かったねぇ”と私と同じくらい喜んでくれています。
そして、私たち並みに安心してくれています(笑)。
これからの「はまなす」は、確実にパワーアップすると思うんですよ。地元食材を取り入れた彼女だけのオリジナル中華も徐々に出てくるはず。今までのメニューにプラスアルファで、中身の濃いお店になると思います。もう思いっ切りやってほしいですね。私もお客さんとしてその味を楽しみたいですね。
つづいてシャインエさんに、後継者になりたいと思ったきっかけや、実際に働いてみてどう思ったのかなど伺いました。
何度も通って、後継者になりたいと決意
中国の大連市出身です。15年前に、結婚して北海道の札幌市に来ました。市内の中華料理屋で5~6年働いて修行をしました。その後、札幌のドラッグストアで中国人観光客向けの通訳として働いていました。
昔からずっと料理が好きで、いつか自分のお店を出したいという気持ちがありましたが、札幌にいたときは漠然としすぎてどうしたらいいかも分からず…。そんな時、「はまなす」が後継者を探していると知り、しかも、地元の食材を使ったメニューで地元を応援できるということが自分のやりたいこととマッチしていると思い、応募しました。
そして、もう一つ理由があります。実は、応募する際に何度も「はまなす」に足を運んで、食事をしました。札幌から車で片道5時間かけて、毎週末です。食事をするたびに、夫婦二人で“やはりおいしい”と思い、私たちも“このお店がなくなってしまうのは悲しい”と実感するようになったんです。
知らなかった食材に知らなかった調理法…学びの日々
最初、メニューを見て料理の種類が多いなと思いました。今も、全メニューを覚えられずにいます。厨房も想像していたよりも遥かに大変。鹿肉とラム肉は、私が初めて取り扱う食材で、ステーキにするのも初めて。苦労といえば苦労かもしれませんが、自分が知らなかった料理もいっぱいあり、色々な食材や調理法もそれぞれに違いがあってとても興味深いです。
谷口さんはとても優しく教えてくださいます。間違えたら怒られますけど(笑)。指摘してくれた方がありがたいので、そこからまた頑張ることができます。
最近、お客様から“頑張ってくださいね”と言ってもらうと、とてもうれしくて、それが私の力になっています。
新メニューを考えるのも楽しみのひとつ
元々、家で中華料理のパーティーをするのがすごく好きで、そのときに思いついて作ったのが、この「シャキシャキ春巻き」です。野菜や肉から出る水分や旨みなど、色々計算しながら味付けをしています。
白糠町の食材を口にするときは、「あの料理に使えそう」「相性がよさそう」と考えながら食べています。次の新メニューは「パリモチ餃子」の予定ですが、麻婆豆腐や角煮なども考えています。角煮は阿寒ポークを使って…と思っていましたが、もしかしたら鹿のお肉でも作れるかも…?こう考えるのも楽しいですね。試行錯誤しながら完成させていきたいと思います。
白糠町へ引っ越してきて、困ることは一切ありません。元々自然が大好きで、毎日鳥の鳴き声を聞いて目覚めています。釣りが趣味なので海が近いのもいいですね。とても住みやすいと感じています。
お店のスタッフの皆さんもそのまま働いてくれることになり、夫は、昼間は在宅で仕事をしているのですが、夜になるとホールにも出てくれています。恵まれた環境だなと感じています。
味を守ることの喜びと責任。そして、これからの「はまなす」のこと
「はまなす」には、先代から受け継いだ「うなぎのタレ」があり、その秘伝のタレも受け継がせていただくことになりました。うなぎは夏だけの限定メニューですが、先代と谷口さんが守ってきた味をしっかり受け継いでいきたいです。
今の目標は、谷口さんに頼らず一人で何でも調理できるようになること。そして、もっとたくさんの人に「はまなす」を知ってもらって、白糠町のおいしい食材をたっぷりと食べていただきたいです。色々な方に来ていただけるような賑やかなお店にしたいですね。皆さんがとても応援してくださっていて、愛されているお店だからこそ責任もあると思っています。もっと頑張ってその気持ちに応えたいです。「はまなす」に来て、本当によかったと思っています。